親が亡くなったときの手続き 完全ガイド
やること・期限・受け取れるお金・注意点・費用
まず死亡届・葬儀の手配、その後は相続放棄3か月・準確定申告4か月・相続税10か月の要否を確認。期限の数え始めは手続きごとに異なる。分割協議が終わらなくても、税金や登記の期限は待ってくれない。
制度・出典の確認日:2026年9月21日。日本国内での一般的な手続き。自治体・加入保険・家族関係によって必要書類や対象が異なる。
1 まず最初にやること(当日〜数日以内)
亡くなった直後は、次の流れで進む。多くは葬儀社が案内・代行してくれる。まずは葬儀社を決めることが最初の一歩。
▶ ① 死亡診断書(死体検案書)を受け取る
- 医師から受け取る。自宅での死亡などは、かかりつけ医・救急や警察の案内に従う。診断書・検案書の料金は発行元へ確認。
- 死亡届と一体の用紙。コピーを5〜10枚とっておくと、後の保険金請求・年金手続きで役立つ(原本は死亡届で役所に提出するため)。
▶ ② 葬儀社を決め、遺体を搬送する
- 病院で亡くなった場合、長時間の安置はできないため搬送先(自宅・斎場)を決める。
- 葬儀社は「複数社の見積もり」を取れると安心(→ 費用は第8章参照)。
▶ ③ 死亡届・火葬許可申請を出す(死亡を知った日から7日以内)
- 死亡地・故人の本籍地・届出人の所在地の市区町村へ。届出人は親族等で、葬儀社が提出を手伝うこともある。国外で死亡した場合は知った日から3か月以内。
- 同時に「火葬許可申請書」を出し、「火葬許可証」を受け取る。これがないと火葬できない。
- 火葬後、火葬済の証明が押された許可証が「埋葬許可証」となり、納骨で必要になるので大切に保管。
▶ ④ 通夜・葬儀・火葬
- 宗教・宗派、規模(家族葬・一般葬など)を決める。
- 菩提寺がある場合は連絡し、戒名やお布施を相談。
届出人の本人確認書類など、必要な持ち物を提出先へ確認。死亡届の押印は任意。
死亡診断書のコピーは多めに確保する。
故人のカードで先に引き出さず、当面の支払い方法を銀行へ相談。相続放棄を検討する場合は、遺産を使う前に専門家へ。
2 手続きの期限一覧【最重要】
「死亡日から全部同じように数える」わけではない。下の表で起算点も確認。申告義務があるか、特例のための申告が必要かも分けて判断。
赤い印は特に注意。期限の数え始めは下表へ。
| 期限 | 手続き・数え始め | 窓口 |
|---|---|---|
| 7日以内 | 死亡の事実を知った日から死亡届。国外死亡は3か月以内。 | 市区町村 |
| 10日/14日以内 | 死亡後の年金受給権者死亡届(厚生年金10日・国民年金14日)。マイナンバー収録済みなら原則不要。 | 年金事務所等 |
| 14日以内が目安 | 国保の脱退・必要な世帯主変更など。自治体で不要になる届出も確認。 | 市区町村・勤務先 |
| 3か月以内 | 自分のために相続が始まったことを知った時から相続放棄・限定承認。調査が終わらない場合は期限内に期間伸長を申立て。 | 家庭裁判所 |
| 4か月以内 | 相続の開始を知った日の翌日から準確定申告・納税(申告義務がある場合)。 | 故人の納税地の税務署 |
| 10か月以内 | 死亡を知った日の翌日から相続税の申告・納付。特例で税額0円でも申告が必要な場合あり。 | 故人の住所地の税務署 |
| 1年/10年 | 相続開始と遺留分侵害の贈与・遺贈を知った時から1年。知らなくても相続開始から10年。 | 請求相手・弁護士・家庭裁判所 |
| 原則2年 | 葬祭費・埋葬料等・高額療養費。給付ごとの起算点は6章へ。 | 加入保険・市区町村 |
| 原則3年 | 死亡保険金は請求権を行使できる時から。約款・起算日を保険会社へ確認。 | 保険会社 |
| 原則3年以内 | 相続で不動産の所有権を取得したと知った日から。2024年4月より前の相続の経過措置は5章へ。 | 法務局 |
| 原則5年 | 未支給年金・遺族年金。起算点・時効の例外は年金事務所へ。待たずに請求。 | 年金事務所 |
3 2週間以内に確認する届出
| 手続き | 確認すること |
|---|---|
| 世帯主変更 | 故人が世帯主なら14日以内が原則。残る人が1人など、新しい世帯主が明らかなら不要な場合あり。 |
| 国保・後期高齢者医療 | 死亡届と連動して処理されるか、別の脱退届が要るかを役場へ確認。資格確認書などの返却・保険料の精算も確認。 |
| 会社の健康保険 | 勤務先へ連絡。扶養家族は故人の資格喪失後、別の健康保険への加入が必要。 |
| 介護保険 | 役場で資格喪失の扱い、介護保険証の返却、未納・還付を確認。 |
| 年金 | 死亡届が必要なら10日(国民年金14日)以内。日本年金機構にマイナンバー収録済みなら原則不要。ただし未支給年金の請求は別途必要。 |
従来の健康保険証は有効期間が終了しているため、2026年は資格確認書等を確認。死亡した人のマイナンバーカードは、相続手続きの番号確認に必要な場合があるので、処分を急がない。
出典:日本年金機構:死亡時の届出/新宿区:おくやみ手続きの例。自治体ごとの案内を優先。
4 早めに済ませる名義変更・解約
期限は厳密でないものの、放置すると料金が発生し続けたり、不正利用のリスクがある。気づいたものから順に進める。
| 対象 | 手続きの内容 |
|---|---|
| 電気・ガス・水道 | 名義変更または解約。引き落とし口座の変更も。 |
| 固定電話・携帯・ネット | 解約または承継。プロバイダ・サブスクも。 |
| NHK受信料 | 名義変更または解約。 |
| クレジットカード | 解約。年会費や不正利用防止のため早めに。 |
| 運転免許証 | 警察署・運転免許センターへ返納。 |
| パスポート | 旅券事務所で失効手続き。 |
| マイナンバーカード | 死亡による返納義務はない。番号確認に使う手続きが終わるまで保管し、返納・処分は自治体へ確認。 |
| 各種会員・サブスク | 動画・音楽・新聞・ジム・通販など継続課金を停止。 |
| ネット銀行・ネット証券 | いわゆる「デジタル遺産」。見落とすと財産が埋もれる。 |
5 相続の手続き(期限あり)
遺言の確認 → 相続人・財産の調査 → 承認/放棄の判断 → 分割・名義変更。税金と登記の期限確認は並行して進める。
▶ ① 遺言を確認する
- 封印のある遺言書は勝手に開封しない。家庭裁判所で開封・検認。封印のない自筆証書遺言も原則検認が必要。
- 公正証書遺言と、法務局保管の自筆証書遺言は検認不要。検認は内容を記録する手続きで、遺言の有効性を保証しない。
▶ ② 相続人・財産・借金を確認する
- 故人の出生から死亡までの戸籍等を集め、前婚の子・認知した子も含めて相続人を確認。
- 預金・証券・不動産だけでなく、ローン・未払金・連帯保証も調査。具体的な探し方は9章へ。
- 指定受取人の死亡保険金は原則として受取人固有の財産で、遺産分割とは別。ただし保険料負担者などにより相続税等の対象になる。
▶ ③ 相続放棄・限定承認(原則3か月以内)
- 自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ。親族に「受け取らない」と伝えるだけでは相続放棄にならない。
- 限定承認は相続人全員で行う。調査が間に合わなければ、期限内に熟慮期間の伸長を申し立てる。
- 遺産の処分・払戻し等で単純承認と扱われる可能性がある。放棄の可能性がある間は、実行前に弁護士等へ相談。
▶ ④ 準確定申告・納税(必要な場合、4か月以内)
- 相続開始を知った日の翌日から4か月以内。死亡年の1月1日〜死亡日までの所得が対象。未申告の前年分も必要な場合あり。
- 年金や不動産収入があるだけで、一律に申告義務が生じるわけではない。所得・控除・源泉徴収・申告不要制度を確認。
- 年金収入400万円以下かつ年金以外の所得20万円以下など、所得税の申告不要制度に該当する場合あり。すべての年金が源泉徴収対象である等の条件も確認。
- 医療費控除は還付申告の検討事項で、それだけで義務になるわけではない。故人が生前に支払った医療費が対象。
▶ ⑤ 遺産分割・申告
- 協議で分けるなら相続人全員の合意が必要。協議書・実印・印鑑証明等の提出要件は、金融機関や法務局へ確認。
- 相続税は死亡を知った日の翌日から10か月以内。未分割でも期限は延びない。未分割として申告し、後から修正・更正の請求や特例適用を検討する。
▶ ⑥ 不動産の相続登記
- 相続による所有権取得を知った日から3年以内。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象。
- 2024年4月1日より前の相続も対象。それ以前から取得を知っていた未登記不動産は2027年3月31日まで。2024年4月以後に取得を知った場合は、その日から3年以内。
- 分割がまとまらないときは、期限内の相続人申告登記で基本的な義務を履行できる。ただし所有権の移転登記の代わりにはならず、売却には別途登記が必要。
- 後に遺産分割が成立した場合は、その日から3年以内に分割内容を反映する登記も必要。
6 申請すると受け取れるお金
| 給付 | 対象・金額 | 時効・起算点の目安 |
|---|---|---|
| 葬祭費 | 国保・後期高齢者医療。葬祭を行った人へ自治体所定額(例:横浜市の国保は5万円)。 | 葬祭日の翌日から2年が一般的。加入先へ確認。 |
| 埋葬料/埋葬費 | 会社の健康保険。生計を維持されていた人への埋葬料は5万円。該当者がいなければ、埋葬した人へ実費を5万円まで。被扶養者の死亡は家族埋葬料。業務外の死亡が対象。 | 埋葬料・家族埋葬料は死亡日の翌日、埋葬費は埋葬日の翌日から2年。 |
| 高額療養費 | 保険診療の自己負担限度額を超えた分。食事代・差額ベッド代等は対象外。相続人が請求する場合の書類を加入先へ確認。 | 原則、診療月の翌月1日から2年。支払が遅れた場合は起算点が変わる。 |
| 未支給年金 | 死亡月分までの未払い年金。死亡当時生計を同じくしていた遺族へ、配偶者→子→父母→孫→祖父母→兄弟姉妹→その他3親等内の順。 | 原則、年金支払日の翌月初日から5年。 |
| 遺族年金 | 故人の加入・納付要件、遺族の年齢・生計維持等で判定。下記参照。 | 原則5年。起算点・遡及分・例外は年金事務所へ。 |
| 死亡保険金 | 契約の受取人が保険会社へ請求。 | 原則3年。起算日と約款を確認。経過後も自己判断で諦めず相談。 |
葬祭費と健康保険の埋葬料等は、同じ死亡について重複して受け取れない。退職後3か月以内の死亡などは、以前の健康保険から受けられる場合もある。
▶ 未支給年金と遺族年金は別のもの
- 未支給年金:成人の子も、生計同一・順位などを満たせば対象。別居でも仕送り等で認められる場合がある。受け取った人の一時所得になる。
- 遺族基礎年金:生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」が対象。子は原則18歳年度末まで、障害等級1・2級なら20歳未満(未婚)。
- 遺族厚生年金:配偶者・子・父母などで年齢や順位の要件が異なる。子のない配偶者でも対象になる場合あり。独立した成人の子が一般に受け取れる制度ではない。
- 年金額や受給可否は故人と遺族の記録で確認。将来施行の制度改正を現在の死亡にそのまま当てはめない。
社会通念上相当な香典は通常、贈与税の課税対象外で遺産分割の対象とも別。受取人指定の死亡保険金も原則は受取人固有の財産。ただし税金の扱いは別なので、相続税で確認。
7 しない方がいいこと・注意点
故人の預貯金を安易に使わない:遺産を使うと「単純承認」とみなされ、後から相続放棄ができなくなる恐れ。借金の有無が不明なうちは特に慎重に。
遺品・形見分けを急いで処分しない:価値ある物を処分すると、これも単純承認扱いになることがある。
遺産分割協議書に安易に署名・押印しない:自分だけの都合では撤回できない。やり直しには全員の合意等が必要で、税金にも影響しうる。内容を理解してから。
▶ 期限・手続きに関する注意
- 相続放棄の3か月を軽視しない。借金が後から発覚しても、期限を過ぎると放棄できないことがある。
- 準確定申告(4か月)・相続税(10か月)の期限を逃すと、延滞税・加算税など余計な負担が生じる。
- 相続登記を放置しない。義務化され過料の対象。放置すると相続人が増えて手続きが複雑化・高額化する。
- 封印のある遺言書を勝手に開封しない。検認の要否は5章へ。
▶ お金・契約に関する注意
- 葬儀を慌てて高額プランで即決しない。見積書の内訳(式場・飲食・返礼・お布施は別か等)を必ず確認。
- 相続人の間で口約束だけにしない。必ず書面(協議書)に残す。
- ネット銀行・ネット証券・暗号資産などデジタル遺産を見落とさない。
- 「相続手続きを全部代行する」といった過度な勧誘・高額請求には注意。複数に相談を。
8 費用と相続税 ― 見積もりで確認すること
葬儀・お墓・専門家報酬は、地域や依頼範囲で大きく変わる。根拠や含まれる項目が不明な「全国相場」より、同じ条件の総額見積もりで比較。
| 対象 | 見積もりで分ける項目 |
|---|---|
| 葬儀 | 搬送・安置日数・ドライアイス・式場・火葬料・祭壇・飲食・返礼品・宗教者への謝礼。広告の基本料金だけで比較しない。 |
| 形式 | 直葬は通夜・告別式なし、一日葬は通夜なし、家族葬は参列者を限定。「家族葬」だから必ず安いとは限らない。 |
| 納骨・墓 | 区画・施設使用料、墓石、彫刻・納骨作業、年間管理料、将来の合祀・撤去費。永代供養でも条件は施設ごと。 |
| 司法書士・税理士等 | 基本報酬、相続人・物件数による加算、評価や分割協議の範囲、戸籍等の実費、登記の税金を分ける。争いは弁護士へ。 |
| 相続登記の登録免許税 | 原則、固定資産税評価額×0.4%。一定の土地には免税措置があるため法務局で確認。専門家報酬とは別。 |
病院紹介の会社に葬儀まで依頼する義務はない。ただし搬送・安置・移送やキャンセルの費用を先に確認。見積書に、追加料金が発生する条件も残す。
▶ 相続税の申告が必要か
法定相続人3人なら4,800万円。保険金などのみなし相続財産・加算対象の生前贈与・債務等も含めて判定。小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使って税額0円になる場合も、原則として申告が必要。
配偶者の税額軽減は、実際に取得した正味遺産額のうち1億6,000万円と法定相続分相当額の多い方までが対象。税額の計算は相続税に集約。
9 親の財産の探し方
通帳・郵便物・保険証券・税の通知・確定申告書・借用書・端末内の記録から一覧を作る。どの照会制度も、すべての財産・借金を網羅するわけではない。
| 財産 | 探し方・限界 |
|---|---|
| 預貯金 | 取引先の銀行へ全店照会。死亡日現在の残高証明書・取引履歴を確認。1つの銀行で他行まで一括検索する制度ではない。 |
| 不動産 | 所有不動産記録証明制度(2026年2月2日開始)で、登記名義から全国の不動産を一覧化。旧住所・旧氏名も確認。未登記物件や検索条件と一致しない物件は漏れることがある。納税通知書・自治体の名寄帳も併用。 |
| 名寄帳 | 自治体ごとに請求。非課税の私道・山林等が載るかは自治体の取扱いによる。納税通知書だけで全部とは判断しない。 |
| 証券 | 郵便物・入出金記録を確認。不明ならほふりの開示請求で振替株式等の口座管理機関を照会。銘柄・残高・取引履歴は分からない。外国株・債券・通常の投資信託だけの口座などはこの照会の対象外。各金融機関にも確認。 |
| 生命保険 | 生命保険契約照会制度で生命保険協会の会員会社に契約の有無を照会。共済・対象外契約等は別途確認。判明後の請求は各保険会社へ。 |
| 借金・保証 | CIC・JICC・全国銀行個人信用情報センターへ相続人として開示を申請。登録対象外の個人間借入・保証等は契約書・督促状でも確認。 |
| デジタル資産 | ネット銀行・証券・暗号資産・電子マネー・サブスク。端末やメールは消去せず、事業者の相続手続きを確認。故人としてログインして取引しない。 |
生命保険契約照会は対象者1名につきWEB6,000円/書面7,000円(確認日時点)。ほふりは2026年10月1日改定後、相続人の請求は1件7,700円(税込)。法務局発行の法定相続情報一覧図のコピーを提出すれば6,050円。同じ人の旧住所・旧氏名等を同時に調べる場合、2件目以降は1件1,100円加算。不備がなくても結果の送付まで約2か月(受付状況により延びる)。申告・放棄の期限とは別に早めに請求。
出典:法務省:所有不動産記録証明制度/ほふり:開示できる情報・費用・所要期間/生命保険協会:契約照会/CIC:相続人の開示。
10 銀行・証券の相続手続き ― 実際の受け取り方
▶ 書類は遺言・協議・相続人の状況で変わる
- まず各金融機関へ相続の連絡をし、所定様式と必要書類を取り寄せる。
- 戸籍、本人確認、印鑑証明、遺言・検認証明、遺産分割協議書などを、指定された組合せで提出。全員分が常に必要とは限らない。
- 法務局保管の自筆証書遺言は、遺言書情報証明書等を用意。公正証書遺言とともに検認不要。
戸籍等と一覧図を法務局に提出し、認証文付きの写しを無料で取得。遺言・協議書・印鑑証明・本人確認書類まで不要になるわけではない。戸籍取得等の実費は別で、提出先の取扱いも確認。
▶ 銀行:払い戻し・名義変更
銀行が死亡を把握すると取引が制限される。必要書類の審査後、払い戻しや名義変更。期間は金融機関と書類の状況次第で、納税期限に間に合うよう早めに相談。
相続開始時の預金額×1/3×その人の法定相続分を口座・明細ごとに計算。1人につき同一金融機関の合計150万円まで、家庭裁判所の判断を経ずに単独請求できる。
例:預金600万円、子2人が相続人なら、1人の上限は600万×1/3×1/2=100万円。必要書類・審査があり即日とは限らない。払戻し分はその人が遺産の一部を取得した扱いになる。相続放棄を検討している人は、利用前に弁護士等へ相談。
▶ 証券:相続人の口座へ移管が基本
- 原則として同じ証券会社に受入用口座を用意し、相続書類を提出して株・投信を移す。商品や遺言執行者等によって別の取扱いもある。
- 故人のID・暗証番号で売買しない。移管後の売却・保有、移管できない商品の扱いは証券会社へ確認。
- 課税口座の株は原則、故人の取得価額・取得時期を引き継ぐ。NISAからの相続は原則、相続開始日の終値相当額が取得価額。
売却税・取得費加算の要件と計算は相続税へ。取得費加算の対象期間は、原則として相続開始の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日まで。相続税を負担した財産等が対象で、申告も必要。
出典:法務局:法定相続情報証明制度/全国銀行協会:分割前の払戻し/SMBC日興証券:相続手続きの例/国税庁:NISAの相続/取得費加算。
11 後から財産が見つかったら
どれだけ調べても、あとから預金や不動産、保険が出てくることはある。見つかったタイミングによって対応が変わる。
▶ ① 遺産分割の「前」に見つかった
- その財産も含めて、分け方を話し合えば問題ない。
▶ ② 遺産分割の「後」に見つかった
- 原則、その財産についてだけ改めて相続人全員で協議する(決めた分のやり直しは不要)。
- 予防策:後から判明した財産の取得者を協議書で決めておく方法もある。条項の対象範囲や金融機関の取扱いによるため、文案は専門家へ確認。
▶ ③ 相続税の申告「後」に見つかった
- 税額が増える場合は「修正申告」が必要。調査の事前通知前の自主修正なら通常、過少申告加算税はかからないが、延滞税は別。
- 加算税の有無・率は通知や修正の時期、正当な理由等で変わる。判明したら早めに税務署・税理士へ。
- 逆に多く申告しすぎていた場合は「更正の請求」で払い過ぎを取り戻せる(原則、法定申告期限から5年以内)。
▶ ④ 相続放棄した「後」に見つかった
- 放棄した人はプラスの財産も受け取れない(代わりに借金も負わない)。
- 「資産がないと思って放棄したら実はあった」という取消しは原則できない。放棄する前の財産調査がとても大切。
新たな財産で申告税額に影響が出るなら早めに修正。単なる申告漏れと、隠蔽・仮装による重加算税は別の判断。調査対象を一律「過去10年」とは決められない。
一方で、あわてて使ったり処分したりせず、まず相続人間で共有し、必要なら専門家に相談。
12 よくある失敗 ― 詳細は該当箇所へ
| 失敗 | 先に確認するところ |
|---|---|
| 故人の預金を使ってから借金が判明 | 相続放棄の判断。分割前の払戻し制度も、放棄に無関係ではない。 |
| 協議が終わるまで申告・登記を待つ | 期限一覧と未分割時の対応。 |
| 保管された遺言なら必ず有効と思う | 遺言の効力。法務局保管・検認は有効性の保証ではない。 |
| 保険金・未支給年金の請求を忘れる | 受け取れるお金。それぞれ対象者が異なる。 |
| 照会1つで全財産が見つかると思う | 財産の探し方。登記・ほふり・保険照会には対象外がある。 |
| 納税資金が足りない | 延納・物納を期限前に相談。売却にも時間がかかる。 |
財産・借金の一覧、遺言の保管先、葬儀・お墓の希望、端末やアカウント情報の安全な保管場所。パスワード等を公開のメモに書かず、相続時は各社の正規手続きを使う。
13 申告漏れを防ぐ記録の残し方
- 死亡日現在の残高と、その後の払戻し・支払いを区別して記録。払戻しただけで課税対象から消えるわけではない。
- 故人の現金、貸付金、名義預金の可能性がある口座も確認。名義だけでなく、資金の出所や贈与の実態を資料で判断。
- 葬式費用は領収書を保管。領収書のないお布施等は日付・相手・金額・内容を記録。
- 葬儀・火葬・搬送など一定の費用は相続財産から控除可能。香典返し・法要・墓地墓石購入等は対象外。
- 死亡後に遺族が払った故人の医療費は、故人の準確定申告の医療費控除とは別。相続税の債務控除や支払った遺族の医療費控除に該当するかを確認。
- カード停止とサービス契約の解約は別。サブスクの解約・引落口座の変更も事業者ごとに進める。
「都市部なら口座凍結が遅い」「調査は必ず申告の1〜2年後」といった前提で動かない。書類・振込記録・家族間の精算記録を保管し、不明な財産は専門家と確認。
14 見落としやすい制度・ケース別の注意点
知っていれば税金や手間を大きく減らせる制度と、「うちは大丈夫」と思っていると後で困りやすいケースをまとめた。参考にした主なサイトは章末に記載している。
■ 税金を大きく減らせる制度(使うには申告が必要)
▶ 小規模宅地等の特例(自宅の土地が最大80%減)
- 親と同居していた自宅などの土地は、330㎡までの部分について評価額を80%減額できる。相続税が大幅に下がり、ゼロになることもある。
- 申告して初めて使える制度。特例で税額がゼロになる場合でも、相続税の申告(10か月以内)が必要。
- 対象者ごとに要件が異なる。同居親族は原則、申告期限までの居住・保有継続が必要。一定要件の別居親族も対象。配偶者には居住・保有継続要件なし。
▶ 配偶者の税額軽減は「二次相続」まで考える
- 配偶者は実際の取得額が1億6,000万円と法定相続分相当額の多い方まで税額軽減の対象。適用には原則申告が必要(第8章)。
- ただし一次相続で配偶者に寄せすぎると、その配偶者が次に亡くなる二次相続で子の負担が重くなりがち(基礎控除が1人分減り、配偶者軽減も使えないため)。
- 一次・二次を通算して分け方を決めると、トータルの相続税を抑えられることが多い。
■ 手続きがラクになる・いらない土地を手放せる制度
▶ 法定相続情報証明制度(戸籍の束が1枚に)
- 法務局に戸籍一式を一度提出すると、「法定相続情報一覧図」を無料で何枚でも発行してもらえる。
- 主に戸籍の束の代わりに使うもの。必要書類と限界は10章に集約。
▶ 相続土地国庫帰属制度(2023年4月〜)
- 相続したいらない土地を国に引き取ってもらえる制度。
- 建物がある・担保権がある・境界が不明・土壌汚染などの土地は対象外。
- 申請時に1筆14,000円の審査手数料(原則返還なし)。承認後は別途負担金が必要で、基本20万円。一定の市街地の宅地・農地や森林は面積等で増え、100万円を超える場合もある。
■ もめる前に知っておく注意点
▶ 遺留分(遺言でも奪えない最低限の取り分)
- 相続人となる配偶者・子・直系尊属には遺留分がある。侵害されても遺言が自動的に無効になるのではなく、金銭請求で調整する。
- 「全財産を長男に」という遺言でも、他の相続人は不足分を遺留分侵害額としてお金で請求できる(相続開始と侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、相続開始から10年の期間制限)。
- 兄弟姉妹には遺留分がない。
▶ 相続人に認知症・未成年・行方不明の人がいる
- その人を外した遺産分割協議は無効。相続人全員が有効に参加する必要がある。
- 意思能力がない人は成年後見等、親と利害が対立する未成年は特別代理人、行方不明者は不在者財産管理人等を検討。財産管理人の選任だけで分割できるとは限らず、裁判所の権限外行為許可等も確認。
- 選任に数か月かかることもあるため、該当する場合は早めに動く。
15 応用編:贈与・住まい・納税で使える制度
ここまでより一歩踏み込んだ制度。生前の対策や、相続税を実際に払う場面で関わってくる。制度は2026年9月確認。条件を満たすか、資産税に詳しい税理士等へ確認。
■ 生前贈与を活用する2つの方法
▶ ① 暦年贈与(毎年110万円まで非課税)
- 1人が1年間に受け取る贈与が110万円までなら贈与税は非課税。こつこつ財産を移して相続財産を減らせる。
- 2024年改正の注意:亡くなる前の一定期間の贈与は相続財産に足し戻される(持ち戻し)。この期間が3年→7年に延長(2024年以降、完全移行は2031年)。延長された4〜7年前の分は合計100万円まで加算対象外。
- 相続・遺贈で財産を受け取らない孫などへの贈与は、原則この持ち戻しの対象外。
▶ ② 相続時精算課税(年110万円+累計2,500万円の特別控除)
- 原則、贈与年1月1日に贈与者が60歳以上の父母・祖父母等、受贈者が18歳以上の推定相続人の子等・孫であることが条件。年110万円控除後、同じ贈与者の累計2,500万円の特別控除の残額を差し引き、超過分に20%。特別控除には期限内申告が必要。
- 2024年改正:年110万円の基礎控除が新設。年110万円以下は贈与税の申告も原則不要で相続時の加算対象外。ただし初めて選ぶ年の選択届出は必要。同制度を使う贈与者が複数なら110万円を按分。
- 選択した贈与者については暦年課税に戻れない。また、生前贈与した土地には小規模宅地等の特例(第14章)が使えなくなる点に注意。
■ 配偶者の住まいを守る「配偶者居住権」
- 相続開始時に故人所有の建物に住んでいた配偶者が、遺言・分割協議等で配偶者居住権を取得すると、所有権を別の相続人に渡しながら住み続ける設計が可能。故人が配偶者以外と共有していた建物などは対象外。
- 配偶者居住権は配偶者が亡くなると消滅し、二次相続では課税されないため、トータルの相続税が下がることがある。
- 注意:譲渡できない(老人ホーム資金に換えにくい)、放棄すると贈与税がかかる場合がある、小規模宅地の特例をフル活用できないことも。節税目的の制度ではないので、必ず専門家と検討を。
■ 相続税を現金で払えないとき(延納・物納)
- 延納:相続税を一括で払えないとき、担保を提供して分割払い(年賦)にできる制度。要件は「税額10万円超」「金銭一括納付が困難」など。担保は原則必要だが、延納税額100万円以下かつ延納期間3年以下なら不要。利子税がかかり、期間は財産に占める不動産の割合で変わる(不動産が多いほど長期にできる)。
- 物納:現金納付も延納も難しい場合に、相続した不動産などの"モノ"で納める最終手段。要件が厳しく、順番も決まっている。
- いずれも申告期限(10か月)までに申請が必要。まず延納、それも無理なら物納、という順で検討する。
出典:国税庁 相続時精算課税/延納/物納/法務省:配偶者居住権/国税庁:配偶者居住権消滅時の課税。
16 孫への贈与と「死亡前7年」の相続税
孫に贈与して7年以内に祖父母が亡くなっても、必ず相続扱いになるわけではない。暦年課税の贈与では、その孫が死亡時に祖父母から相続・遺贈などで財産を取得したかが重要。一方、相続時精算課税を選んだ贈与は別のルール。
■ 暦年贈与:孫が死亡時に財産を受け取るかで変わる
| 孫の状況 | 死亡前の暦年贈与の扱い |
|---|---|
| 相続・遺贈などで祖父母の財産を受け取らない | 原則として生前贈与加算の対象外。通常、親(祖父母の子)が存命なら孫は法定相続人ではない。 |
| 遺言による遺贈、死亡保険金などを受け取る | 加算対象期間内の暦年贈与を、その孫の相続税の課税価格に加算。年110万円以下の贈与も対象。 |
| 親が先に死亡し、孫が代襲相続人になる | 実際に相続等で取得すれば加算対象。代襲相続の孫は相続税の2割加算は原則なし。 |
| 孫を養子にして相続させる | 実際に相続等で取得すれば加算対象。孫養子は、代襲相続人でもある場合を除き、相続税の2割加算の対象。 |
■ 「7年」は一気に始まるのではなく段階移行
| 祖父母の死亡日 | 暦年贈与の加算対象期間 |
|---|---|
| 2026年12月31日まで | 死亡前3年以内 |
| 2027年1月1日〜2030年12月31日 | 2024年1月1日から死亡日まで(年々延びる) |
| 2031年1月1日以後 | 死亡前7年以内 |
- 死亡前3年以内の贈与は全額が加算対象。延長された「3年超〜7年以内」の部分は、合計100万円まで加算されない。
- 加算された贈与について既に支払った贈与税があれば、一定の計算で相続税から控除される。
- これは贈与が無効になるという意味ではなく、相続税を計算するときに贈与時の価額を足す仕組み。
■ 相続時精算課税を選んだ場合は別
- 相続時精算課税による贈与は、原則として贈与者が亡くなったときに贈与時の価額を相続税計算へ加える。「7年を過ぎれば外れる」制度ではない。
- 2024年以後の相続時精算課税には年110万円の基礎控除があり、この範囲は原則として相続税計算にも加算されない。
- 暦年課税と相続時精算課税は結論が反対になることがあるため、贈与契約書、送金記録、贈与税申告書、遺言・保険の受取人をまとめて確認する。
確認資料:国税庁 贈与財産の加算/2割加算/相続時精算課税。個別の保険・教育資金・住宅資金の非課税には別の例外があるため、実行前に資産税に詳しい税理士へ確認する。
17 遺言と法定相続 ― 誰が優先? 家族以外は?
有効な遺言があれば、原則として遺言の指定が法定相続分より先に実現される。ただし相続人となる配偶者・子・直系尊属には遺留分があり、侵害された人は金銭請求ができる。遺言がない、または遺言で決めていない財産は、法定相続人が遺産分割協議で分ける。
■ 法定相続人の優先順位
- 配偶者は常に相続人。法律婚の配偶者が対象で、内縁の配偶者は法定相続人ではない。
- 第1順位:子。子が先に死亡している場合は、その子の子(孫)が代襲することがある。
- 第2順位:直系尊属(父母、父母がいなければ祖父母)。第1順位がいないときだけ相続人になる。
- 第3順位:兄弟姉妹。第1・第2順位がいないときだけ相続人。兄弟姉妹が先に死亡している場合は、その子(おい・めい)まで代襲する。
| 相続人の組合せ | 配偶者 | もう一方の相続人 |
|---|---|---|
| 配偶者+子 | 1/2 | 子全体で1/2 |
| 配偶者+父母など直系尊属 | 2/3 | 直系尊属全体で1/3 |
| 配偶者+兄弟姉妹 | 3/4 | 兄弟姉妹全体で1/4 |
| 配偶者がいない | ― | 最も上位の順位の人が全部(同順位で均等が原則) |
法定相続分は、話し合いがまとまらない場合などの基準。相続人全員が合意すれば、法定相続分と異なる分け方もできる。
■ 遺言がある場合の優先関係
- 遺言で「長男に自宅」「友人に500万円」などと指定できる。相続人でない人に与えることを遺贈という。
- 相続人となる配偶者・子・直系尊属には遺留分がある。侵害されても遺言が自動的に無効になるのではなく、権利者が期限内に遺留分侵害額請求を行う。兄弟姉妹には遺留分がない。
- 形式不備を減らす方法として公正証書遺言や法務局保管を検討。法務局の保管は形式面を確認するが、内容の有効性まで保証しない。
■ 家族以外の人はどうなる?
- 友人、内縁の配偶者、世話になった人、法人・団体などは、原則として法定相続人ではない。渡したい場合は、有効な遺言で受遺者と財産を特定する。
- 法定相続人が誰もおらず遺言もない場合、家庭裁判所の清算手続後、生計を同じくしていた人や療養看護に努めた人などが特別縁故者として残余財産の全部・一部を受けられることがある。自動取得ではなく、申立てと裁判所の判断が必要。
- 第三者である個人への遺贈には相続税がかかることがあり、配偶者・一親等の血族等以外は原則相続税額の2割加算の対象。法人・団体への遺贈は税務上の扱いが異なるため個別に確認。
18 困ったときの相談先
| 相談先 | 対応してくれること |
|---|---|
| 市区町村役場 | 手続き全般。多くの自治体に「おくやみコーナー」があり、必要手続きを一覧で案内。 |
| 年金事務所 | 年金の停止、未支給年金、遺族年金。 |
| 税務署 | 準確定申告、相続税。無料相談あり。 |
| 法務局 | 不動産の相続登記。登記相談の窓口あり。 |
| 家庭裁判所 | 相続放棄、限定承認、遺言書の検認。 |
| 弁護士 | 相続争い・遺留分など、もめている案件。 |
| 司法書士 | 相続登記、各種書類作成。 |
| 税理士 | 相続税・準確定申告。 |
| 行政書士 | 遺産分割協議書の作成、戸籍収集。 |
| 銀行・信託銀行 | 預貯金の相続手続き、相続手続き代行サービス。 |
■ 公式情報の確認先
本資料は2026年9月21日時点で確認した一般的な情報。手続きの要否・期限・金額・窓口は、居住地の自治体、故人の加入制度、家庭の状況によって異なる。実際の手続きは各窓口や専門家に確認が必要。