親が亡くなったときの手続き 完全ガイド

やること・期限・受け取れるお金・注意点・費用の相場

大切なご家族を亡くされ、心よりお悔やみ申し上げます。

やるべきことが多く不安に感じられるかもしれませんが、本当に急ぐ手続きは限られています。まずは葬儀と、期限の近い届出だけを押さえれば大丈夫です。この冊子を上から順に進めてください。

1 まず最初にやること(当日〜数日以内)

亡くなった直後は、次の流れで進みます。多くは葬儀社が案内・代行してくれます。まずは葬儀社を決めることが最初の一歩です。

▶ ① 死亡診断書(死体検案書)を受け取る

  • 病院で医師から受け取る(費用の目安 5,000〜1万円。自宅や事故等で警察が関わる「死体検案書」は数万円かかることも)。
  • 死亡届と一体の用紙。コピーを5〜10枚とっておくと、後の保険金請求・年金手続きで役立ちます(原本は死亡届で役所に提出するため)。

▶ ② 葬儀社を決め、ご遺体を搬送する

  • 病院で亡くなった場合、長時間の安置はできないため搬送先(自宅・斎場)を決める。
  • 葬儀社は「複数社の見積もり」を取れると安心(→ 費用は第8章参照)。

▶ ③ 死亡届・火葬許可申請を出す(死亡を知った日から7日以内)

  • 市区町村役場に提出。葬儀社が代行してくれることがほとんど
  • 同時に「火葬許可申請書」を出し、「火葬許可証」を受け取る。これがないと火葬できません。
  • 火葬後、火葬済の証明が押された許可証が「埋葬許可証」となり、納骨で必要になるので大切に保管。

▶ ④ 通夜・葬儀・火葬

  • 宗教・宗派、規模(家族葬・一般葬など)を決める。
  • 菩提寺がある場合は連絡し、戒名やお布施を相談。
この段階での持ち物・ポイント

故人の認印、届出人の身分証があるとスムーズ。

死亡診断書のコピーは多めに確保する。

銀行に死亡を伝えると口座が凍結されます。当面の支払いに使う現金は、伝える前に必要分を把握しておくと安心(※使い込みは後述の注意点に該当)。

2 手続きの期限一覧【最重要】

期限のある手続きだけを先に押さえれば、あとは落ち着いて進められます。特に色をつけた相続関係(3か月・4か月・10か月)は要注意です。

期限手続き窓口
7日以内死亡届の提出市区町村役場(葬儀社が代行可)
10日以内年金受給の停止(厚生年金)年金事務所
14日以内年金受給の停止(国民年金)/世帯主変更届/健康保険・介護保険の資格喪失年金事務所・役場
なるべく早く公共料金・各種契約の名義変更・解約各事業者
3か月以内相続放棄・限定承認(借金が多いとき)家庭裁判所
4か月以内準確定申告(故人の所得税)税務署
10か月以内相続税の申告・納付税務署
1年以内遺留分侵害額請求(相手・裁判所)
2年以内葬祭費・埋葬料の請求/高額療養費の請求健保・役場
3年以内生命保険金の請求/不動産の相続登記保険会社・法務局
5年以内未支給年金・遺族年金の請求年金事務所

※ 期限の起算日は手続きにより「死亡日」または「死亡を知った日」など異なります。上記は代表的な目安です。

特に絶対に見逃せない3つの期限

3か月:相続放棄。借金(連帯保証を含む)が多い場合、この期間を過ぎると原則放棄できず借金を相続します。

4か月:準確定申告。故人に事業・不動産・年金などの所得があった場合に必要。

10か月:相続税の申告・納付。遅れると延滞税・加算税がかかります。

3 2週間以内にやる届出

▶ 世帯主変更届(14日以内)

  • 故人が世帯主で、残された世帯員が2人以上いる場合に必要(配偶者だけが残る等、次の世帯主が明らかな場合は不要)。

▶ 健康保険の資格喪失・保険証の返却

  • 国民健康保険・後期高齢者医療(75歳以上):14日以内に役場へ。保険証を返却。
  • 会社の健康保険(被用者保険)に故人が加入していた場合は勤務先が手続き。扶養に入っていた家族は新たな保険への加入が必要。

▶ 介護保険の資格喪失(14日以内)

  • 介護保険証を役場に返却。未納・還付があれば精算。

▶ 年金の受給停止

  • 厚生年金は10日以内、国民年金は14日以内に「受給権者死亡届」。
  • ただし日本年金機構にマイナンバーが登録済みなら、届出を省略できる場合があります。
  • 同時に「未支給年金」(受け取っていない分)の請求も忘れずに(→第6章)。

4 早めに済ませる名義変更・解約

期限は厳密でないものの、放置すると料金が発生し続けたり、不正利用のリスクがあります。気づいたものから順に進めましょう。

対象手続きの内容
電気・ガス・水道名義変更または解約。引き落とし口座の変更も。
固定電話・携帯・ネット解約または承継。プロバイダ・サブスクも。
NHK受信料名義変更または解約。
クレジットカード解約。年会費や不正利用防止のため早めに。
運転免許証警察署・運転免許センターへ返納。
パスポート旅券事務所で失効手続き。
マイナンバーカード自治体により返納。相続手続きで使う場合もあるので確認。
各種会員・サブスク動画・音楽・新聞・ジム・通販など継続課金を停止。
ネット銀行・ネット証券いわゆる「デジタル遺産」。見落とすと財産が埋もれる。

5 相続の手続き(期限あり)

相続は「①遺言の確認 → ②相続人の確定 → ③財産の調査 → ④承認/放棄の判断 → ⑤分け方の話し合い → ⑥名義変更・申告」の順に進みます。

▶ ① 遺言書があるか確認する

  • 自筆の遺言書は、勝手に開封せず家庭裁判所の「検認」を受ける(法務局で保管されていた自筆遺言、公正証書遺言は検認不要)。
  • 検認前に開封すると過料(5万円以下)の対象になることがあります。

▶ ② 相続人を確定する

  • 故人の「出生から死亡まで」連続した戸籍謄本を集め、相続人が誰かを確定します。
  • 前婚の子・認知した子など、思わぬ相続人が判明することもあります。

▶ ③ 相続財産を調査する(プラスもマイナスも)

  • プラス:預貯金、不動産、株式・投資信託、自動車、生命保険など。
  • マイナス:借入金、ローン、未払金、連帯保証など。
  • 不動産は「固定資産税の納税通知書」や市区町村の「名寄帳」で確認。
  • 借金はCIC・JICC・KSC(信用情報機関)に照会できます。

▶ ④ 相続放棄・限定承認を判断する(3か月以内)

  • 借金が財産より明らかに多いなら「相続放棄」を検討(家庭裁判所へ申述)。
  • プラスとマイナスどちらが多いか不明なら「限定承認」という方法も(相続人全員で行う)。
  • 財産調査が3か月で終わらない場合、期間の伸長を家庭裁判所に申し立てできます。

▶ ⑤ 準確定申告(4か月以内)

  • 故人に一定の所得があった場合、相続人が代わりに1月1日〜死亡日までの所得税を申告。
  • 個人事業主、不動産所得、公的年金400万円超、高額医療費があった等が該当しやすい。

▶ ⑥ 遺産分割協議 → 名義変更・相続税申告

  • 相続人全員で分け方を話し合い、「遺産分割協議書」を作成(全員の実印・印鑑証明が必要)。
  • 預貯金の解約・払い戻し、株式や自動車の名義変更を行う。
  • 不動産の相続登記は2024年4月から義務化。取得を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料の対象。
  • 相続税は10か月以内に申告・納付(かかる場合のみ/→第8章の基礎控除を参照)。

6 申請すると受け取れるお金

これらは自分で申請しないともらえません。時効(期限)もあるので忘れず手続きを。

種類目安額内容時効
葬祭費3〜7万円(自治体で差)国民健康保険・後期高齢者。喪主が申請。2年
埋葬料/埋葬費5万円(上限)会社の健康保険。生計維持の遺族等が申請。2年
高額療養費超過分亡くなる前の医療費が自己負担限度を超えた分の払い戻し。2年
未支給年金数万円〜死亡月分までの未受給の年金。同居等の遺族が請求。5年
遺族年金要件による要件を満たす配偶者・子などへ(下の注参照)。5年
生命保険金契約による受取人が保険会社に請求。3年

遺族年金は主に「亡くなった方に生計を維持されていた配偶者や18歳年度末までの子」が対象で、独立した成人の子は対象外となるのが一般的です。親が亡くなった場合、受け取れるのは多くが残された配偶者(もう一方の親)です。要件は複雑なので年金事務所で確認を。

香典は相続財産ではありません

香典は喪主への贈与とされ、相続財産には含まれません。相続放棄をしても受け取れます。

一方、香典返しや葬儀費用は、香典でまかなうのが基本的な考え方です。

7 しない方がいいこと・注意点

特に注意(お金・相続のトラブル防止)

故人の預貯金を安易に使わない:遺産を使うと「単純承認」とみなされ、後から相続放棄ができなくなる恐れ。借金の有無が不明なうちは特に慎重に。

遺品・形見分けを急いで処分しない:価値ある物を処分すると、これも単純承認扱いになることがあります。

遺産分割協議書に安易に署名・押印しない:一度成立すると原則やり直せません。内容を十分に理解してから。

▶ 期限・手続きに関する注意

  • 相続放棄の3か月を軽視しない。借金が後から発覚しても、期限を過ぎると放棄できないことがある。
  • 準確定申告(4か月)・相続税(10か月)の期限を逃すと、延滞税・加算税など余計な負担が生じる。
  • 相続登記を放置しない。義務化され過料の対象。放置すると相続人が増えて手続きが複雑化・高額化する。
  • 自筆の遺言書を勝手に開封しない(検認が必要)。

▶ お金・契約に関する注意

  • 葬儀を慌てて高額プランで即決しない。見積書の内訳(式場・飲食・返礼・お布施は別か等)を必ず確認。
  • 相続人の間で口約束だけにしない。必ず書面(協議書)に残す。
  • ネット銀行・ネット証券・暗号資産などデジタル遺産を見落とさない。
  • 「相続手続きを全部代行します」といった過度な勧誘・高額請求には注意。複数に相談を。

8 費用の相場(葬儀・お墓・専門家・相続税)

地域・宗派・規模で大きく変わります。以下は全国的なおおよその目安です(2026年時点)。

▶ 葬儀の費用(形式別のめやす)

形式費用の目安特徴
直葬・火葬式約10〜30万円通夜・告別式をせず火葬のみ。
一日葬約20〜50万円通夜を省き、告別式と火葬を1日で。
家族葬約40〜100万円親族・近親者中心の小規模な葬儀。
一般葬約100〜200万円会葬者を広く招く従来型。

※ 全体の平均は近年おおむね100〜120万円前後(葬儀一式+飲食+返礼品)。小規模化が進んでいます。お布施(読経・戒名のお礼)は別途10〜50万円程度が一般的で、戒名のランクで変わります。火葬料は公営が無料〜数万円、民営は数万円〜。

葬儀社は「病院の紹介」に即決しなくてよい

病院で亡くなると、提携の葬儀社をすすめられることが多いですが、そこに葬儀まで頼む義務はありません。

搬送だけ頼み、葬儀社は別に選んでよい。会社によって料金体系もサービスも大きく違うため、落ち着いて複数を比べると、費用も納得感も変わります。

▶ お墓・納骨の費用

方法費用の目安内容
既存の墓に納骨約3〜5万円納骨作業・彫刻費など。
永代供養・樹木葬約10〜100万円承継者不要の供養。
納骨堂約20〜100万円屋内で遺骨を安置。
新規に墓石を建てる約100〜200万円墓石+区画の永代使用料。
散骨約5〜30万円海洋散骨など。

▶ 専門家に依頼する場合の費用

依頼内容費用の目安補足
相続登記(司法書士)約6〜15万円/件+登録免許税登録免許税は固定資産評価額の0.4%。
相続税申告(税理士)遺産総額の約0.5〜1%例:遺産5,000万円で30〜50万円が目安。
遺産分割協議書作成数万円〜行政書士・司法書士など。
戸籍収集の代行数万円相続人調査をまとめて依頼。

※ 自分で手続きすれば専門家報酬はかかりません(実費のみ)。財産が多い・相続人が多い・不動産や事業がある・もめそう、といった場合は専門家に依頼した方が安全・確実です。

▶ 相続税の考え方(かかる人は一部です)

相続税の基礎控除(この額まで非課税)

3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)

例:相続人が3人 → 3,000万+1,800万=4,800万円まで非課税。これを超えなければ申告・納税は原則不要。

配偶者はさらに手厚く、1億6,000万円または法定相続分まで非課税(配偶者の税額軽減)。

税率は課税額に応じ10%〜55%の累進。基礎控除を超えそうなら早めに税理士へ相談を。

9 親の財産の探し方

相続放棄(3か月)や相続税(10か月)の判断のため、まず「何が・どれだけあるか」を借金も含めて早めに洗い出します。手がかりは、身近な書類・郵便物・スマホに残っています。

■ まず集める手がかり

  • 通帳・キャッシュカード、銀行や証券会社からの郵便物
  • 保険証券、保険会社からの「契約内容のお知らせ」などの通知
  • 固定資産税の納税通知書、不動産の権利証・登記識別情報
  • 確定申告書の控え(所得の内訳から財産が見えてくる)
  • 手帳・メモ・エンディングノート
  • スマホ・パソコン(メール、ブックマーク、アプリ、閲覧履歴)
  • クレジットカードの明細(引き落とし先・継続課金の手がかり)

■ 財産別のくわしい調べ方

財産調べ方
預貯金取引のある金融機関で「全店照会」。死亡日基準の残高証明書と取引履歴を取得。履歴の入出金から、他行・保険・証券など別の財産が芋づる式に判明することが多い。
不動産市区町村の「名寄帳(固定資産課税台帳)」で一覧を確認(非課税の私道・山林も分かる)。固定資産税納税通知書、法務局の登記事項証明書も。※不動産のある市区町村ごとに申請。
株式・投信証券会社からの郵便物を確認。どこの会社か不明なら「証券保管振替機構(ほふり)」に開示請求すれば口座の開設先が分かる。
生命保険保険証券・通知を確認。不明なら「生命保険契約照会制度」で全社を一括照会できる。
借金・保証契約書・督促状・通帳の返済記録。信用情報機関(CIC・JICC・KSC)に開示請求。連帯保証は書面が頼りなので特に注意。
デジタル資産ネット銀行・ネット証券・暗号資産・電子マネー。スマホ/PCのアプリ・メール・ブックマークが手がかり。

▶ 覚えておくと便利な「照会制度」

どこにあるか分からない財産を一括で調べられる窓口

生命保険契約照会制度(生命保険協会)… 亡くなった方の生命保険契約の有無を全社まとめて確認。手数料は対象者1名につきWEB申請6,000円/書面申請7,000円。

証券保管振替機構「ほふり」の開示請求 … 上場株式・投資信託の口座がどの証券会社にあるかを確認。郵送申請で有料(1件あたり数千円程度/結果は2〜3週間、2026年10月に費用改定予定)。

預貯金の全店照会 … 1つの支店に申し出れば、その銀行の全支店にある口座を調べてもらえる。

※ いずれも戸籍謄本・死亡が分かる書類・請求者の本人確認書類などが必要です。

10 後から財産が見つかったら

どれだけ調べても、あとから預金や不動産、保険が出てくることはあります。見つかったタイミングによって対応が変わります。

▶ ① 遺産分割の「前」に見つかった

  • その財産も含めて、分け方を話し合えば問題ありません。

▶ ② 遺産分割の「後」に見つかった

  • 原則、その財産についてだけ改めて相続人全員で協議します(決めた分のやり直しは不要)。
  • 予防策:遺産分割協議書に「本協議書に記載のない財産が判明した場合は◯◯が取得する」の一文を入れておくと、再協議が不要になります。

▶ ③ 相続税の申告「後」に見つかった

  • 税額が増える場合は「修正申告」が必要。自分から早めに行えば加算税はかからない(または軽い)ことが多い。
  • 税務署に指摘されてからだと、過少申告加算税+延滞税がかかります。判明したらすぐ対応を。
  • 逆に多く申告しすぎていた場合は「更正の請求」で払い過ぎを取り戻せます(原則5年以内)。

▶ ④ 相続放棄した「後」に見つかった

  • 放棄した人はプラスの財産も受け取れません(代わりに借金も負いません)。
  • 「資産がないと思って放棄したら実はあった」という取消しは原則できません。放棄する前の財産調査がとても大切です。
隠さない・あわてない

見つけた財産を申告せず放置すると、税務署の調査(相続開始前10年分の口座履歴などを確認)で判明し、重いペナルティ(重加算税など)の対象になります。名義預金・タンス預金も見られています。

一方で、あわてて使ったり処分したりせず、まず相続人間で共有し、必要なら専門家に相談しましょう。

11 よくある失敗・知っておけばよかったこと

実際の相続でつまずきやすいポイントです。先に知っておくだけで避けられます。

  • 口座が凍結され葬儀費用が引き出せない/銀行に死亡を伝えると口座は凍結。ただし遺産分割前でも「残高×法定相続分×3分の1・1金融機関150万円まで」を単独で引き出せる仮払い制度があります(2019年〜)。
  • 遺産に手をつけて相続放棄できなくなった/借金の有無が不明なうちは故人の預金を使わない。放棄は3か月以内。過ぎても「借金を知った時から3か月」で認められる場合はありますが、確実ではありません。
  • 自筆の遺言書が形式不備で無効に/日付や署名押印の不備で無効になりがち。確実にするなら公正証書遺言か法務局保管を。開封前に検認も忘れず。
  • 後から出た財産で再協議に/遺産分割協議書に「記載外の財産は◯◯が取得」の一文を入れておけば防げます。
  • 名義預金・タンス預金の申告漏れで追徴/子や孫の名義でも、実際に親が管理していたお金は相続財産。税務署は10年分の履歴を調べます。隠さないこと。
  • 不動産ばかりで納税資金が不足/現金が乏しいと相続税の納付に困ります。売るなら取得費加算の特例(相続開始から3年10か月以内の売却で譲渡税が軽くなる)、一人暮らしだった親の家なら空き家の3,000万円特別控除(死亡から3年後の年末までの売却等が条件)も検討を。
  • デジタル遺産の見落とし/ネット銀行・ネット証券・暗号資産・サブスク。パスワード不明で手続きが難航。サブスクは解約するまで課金が続きます。
  • 相続登記の放置/2024年4月から義務化(3年以内・過料あり)。放置すると相続人が増え続け、手続きが困難・高額になります。
  • もらえるお金の取りこぼし/葬祭費・埋葬料・高額療養費・未支給年金・遺族年金・生命保険は「申請しないともらえない」。時効に注意(第6章)。
  • 自己判断で進めて割高に/財産や相続人が多い、不動産や事業がある、もめそうな場合は早めに専門家へ。手数料以上に得をすることが多いです。
存命のご家族がいる方へ(次に備えて)

元気なうちに次を共有しておくと、残された家族の負担が大きく減ります。

財産の一覧(銀行・証券・保険・不動産・借入)。

遺言(できれば公正証書)/エンディングノート。

ネット銀行・証券・スマホのID・パスワードの保管場所。

お墓・葬儀の希望。

12 税務調査で損しないための実践ポイント

相続税の税務調査は申告の1〜2年後に行われることが多く、ほかの税金より調べられやすい分野です。手続きの順番とお金の扱いを間違えると、相続放棄ができなくなったり、余計な税金がかかることがあります。

▶ ① お金の引き出し方を間違えない

  • 亡くなった親のキャッシュカードで遺族が勝手に引き出すのは避ける。本人以外の利用は本来認められず、亡くなった時点で預金は相続人全員の共有財産になります。
  • 葬儀費用などで必要なら、銀行の仮払い制度(残高×法定相続分×3分の1・1金融機関150万円まで)で正式に引き出す。
  • 引き出したお金は「亡くなった日の残高」で相続財産に含めて申告します。使い切らず余ったら戻す(引き出しは"立て替え"のイメージ)。余りをそのままにして申告しないと脱税になります。

▶ ② 亡くなる前の預金の動きも見られる

  • 税務署は生前の預金の引き出しも数年分さかのぼって確認します。「暗証番号を知っていて引き出していたのでは?」「使い道は?」と問われることがあります。
  • 使途不明の大きな引き出しや、子・孫名義でも実質は親が管理していた名義預金は重点的にチェックされます。隠さないのが最善です。
  • 2024年以降、生前贈与を相続財産に加算する期間が3年から7年へ段階的に延長されています。

▶ ③ 葬式費用の領収書は必ず全部保管する

  • 通夜・葬儀・火葬・お布施・遺体搬送・会葬時の飲食などの葬式費用は、相続税の計算で財産から差し引けます(債務控除)。領収書やお布施のメモを残しましょう。
  • ただし香典返し・四十九日などの法要・墓石や墓地の購入費は対象外です。

▶ ④ その他の実践テクニック

  • 準確定申告:会社員だった親は勤務先の年末調整で完了するため原則不要。ただし医療費控除などで税金が戻る場合は、申告した方が得です。
  • サブスク解約:一つずつ解約するより、まずクレジットカードを止めると、カード経由の課金がまとめて止まります。
  • 口座凍結のタイミング:口座は「銀行が死亡を知った日」から凍結されます(時期は一定ではなく、都市部は遅め・地方は早めの傾向)。必要な支払いは凍結前に金額を把握し、引き出す場合も①のルールを守ること。
  • 相続税は「相続専門」の税理士へ:一般の税理士や自力の申告より、専門家の方が節税でき税務調査にも強く、結果的にトータルで得になりやすいです。

(本章は、元国税調査官に学び税務調査に強いとされる税理士・菅原由一氏の解説動画も参考にまとめました。個別のケースは税理士にご確認ください。)

13 見落としやすい制度・ケース別の注意点

知っていれば税金や手間を大きく減らせる制度と、「うちは大丈夫」と思っていると後で困りやすいケースをまとめました。参考にした主なサイトは章末に記載しています。

■ 税金を大きく減らせる制度(使うには申告が必要)

▶ 小規模宅地等の特例(自宅の土地が最大80%減)

  • 親と同居していた自宅などの土地は、330㎡までの部分について評価額を80%減額できる。相続税が大幅に下がり、ゼロになることもあります。
  • 申告して初めて使える制度。特例で税額がゼロになる場合でも、相続税の申告(10か月以内)が必要です。
  • 対象は配偶者・同居の親族、または一定要件の別居親族(いわゆる「家なき子」)。要件が細かいので税理士に確認を。

▶ 配偶者の税額軽減は「二次相続」まで考える

  • 配偶者は1億6,000万円または法定相続分まで相続税が非課税(第8章)。
  • ただし一次相続で配偶者に寄せすぎると、その配偶者が次に亡くなる二次相続で子の負担が重くなりがち(基礎控除が1人分減り、配偶者軽減も使えないため)。
  • 一次・二次を通算して分け方を決めると、トータルの相続税を抑えられることが多いです。

■ 手続きがラクになる・いらない土地を手放せる制度

▶ 法定相続情報証明制度(戸籍の束が1枚に)

  • 法務局に戸籍一式を一度提出すると、「法定相続情報一覧図」を無料で何枚でも発行してもらえます。
  • 銀行・登記・年金など複数の手続きで、戸籍の束を何度も出し直す手間が省け、同時並行で進められます。

▶ 相続土地国庫帰属制度(2023年4月〜)

  • 相続したいらない土地を国に引き取ってもらえる制度。
  • 建物がある・担保権がある・境界が不明・土壌汚染などの土地は対象外です。
  • 承認されると負担金(原則10年分の管理費相当。多くの土地は一律20万円、田畑・山林は面積により20万〜100万円程度)が必要。

■ もめる前に知っておく注意点

▶ 遺留分(遺言でも奪えない最低限の取り分)

  • 配偶者・子・(子がいなければ)親には、最低限の取り分=遺留分があり、遺言よりも優先されます。
  • 「全財産を長男に」という遺言でも、他の相続人は不足分を遺留分侵害額としてお金で請求できます(知った時から1年・相続開始から10年で時効)。
  • 兄弟姉妹には遺留分がありません。

▶ 相続人に認知症・未成年・行方不明の人がいる

  • その人を外した遺産分割協議は無効。相続人全員が有効に参加する必要があります。
  • 判断能力がない人には「成年後見人」、未成年には(親も相続人で利害が対立するとき)「特別代理人」、行方不明者には「不在者財産管理人」を家庭裁判所で選任します。
  • 選任に数か月かかることもあるため、該当する場合は早めに動きましょう。

参考サイト:国税庁(相続税の各特例)/法務省・法務局(法定相続情報証明制度・相続土地国庫帰属制度)/政府広報オンライン/三菱UFJ銀行 相続コラム(遺留分)/税理士法人チェスター(横断解説)。制度の要件・金額は改正されることがあるため、適用は専門家にご確認ください。

14 応用編:贈与・住まい・納税で使える制度

ここまでより一歩踏み込んだ制度です。生前の対策や、相続税を実際に払う場面で関わってきます。数字は2026年時点・2024年の税制改正を反映しています。専門性が高いので、利用は税理士に相談を。

■ 生前贈与を活用する2つの方法

▶ ① 暦年贈与(毎年110万円まで非課税)

  • 1人が1年間に受け取る贈与が110万円までなら贈与税は非課税。こつこつ財産を移して相続財産を減らせます。
  • 2024年改正の注意:亡くなる前の一定期間の贈与は相続財産に足し戻されます(持ち戻し)。この期間が3年→7年に延長(2024年以降、完全移行は2031年)。延長された4〜7年前の分は合計100万円まで加算対象外。
  • 相続・遺贈で財産を受け取らない孫などへの贈与は、原則この持ち戻しの対象外です。

▶ ② 相続時精算課税(累計2,500万円まで)

  • 累計2,500万円まで贈与税をかけずに生前贈与し、相続時にまとめて精算する制度(超えた分は一律20%)。値上がりしそうな財産を早く移すのに向きます。
  • 2024年改正年110万円の基礎控除が新設。この110万円以下は贈与税の申告も不要で、相続財産にも足し戻されません。
  • 一度選ぶと暦年贈与に戻れません。また、生前贈与した土地には小規模宅地等の特例(第13章)が使えなくなる点に注意。

■ 配偶者の住まいを守る「配偶者居住権」

  • 2020年に新設。自宅を「所有権」と「居住権」に分け、残された配偶者は居住権だけを取得すれば、家に住み続けながら預貯金など他の財産も相続しやすくなります。
  • 配偶者居住権は配偶者が亡くなると消滅し、二次相続では課税されないため、トータルの相続税が下がることがあります。
  • 注意:譲渡できない(老人ホーム資金に換えにくい)、放棄すると贈与税がかかる場合がある、小規模宅地の特例をフル活用できないことも。節税目的の制度ではないので、必ず専門家と検討を。

■ 相続税を現金で払えないとき(延納・物納)

  • 延納:相続税を一括で払えないとき、担保を提供して分割払い(年賦)にできる制度。要件は「税額10万円超」「現金一括が困難」「担保提供」など。利子税がかかり、期間は財産に占める不動産の割合で変わります(不動産が多いほど長期にできる)。
  • 物納:現金納付も延納も難しい場合に、相続した不動産などの"モノ"で納める最終手段。要件が厳しく、順番も決まっています。
  • いずれも申告期限(10か月)までに申請が必要。まず延納、それも無理なら物納、という順で検討します。

参考:国税庁(No.4103 相続時精算課税/No.4211 相続税の延納 ほか)、SBI証券・辻・本郷・チェスターなどの解説。2024年税制改正を反映。金額・要件は変わることがあるため、適用は税理士にご確認ください。

15 困ったときの相談先

相談先対応してくれること
市区町村役場手続き全般。多くの自治体に「おくやみコーナー」があり、必要手続きを一覧で案内。
年金事務所年金の停止、未支給年金、遺族年金。
税務署準確定申告、相続税。無料相談あり。
法務局不動産の相続登記。登記相談の窓口あり。
家庭裁判所相続放棄、限定承認、遺言書の検認。
弁護士相続争い・遺留分など、もめている案件。
司法書士相続登記、各種書類作成。
税理士相続税・準確定申告。
行政書士遺産分割協議書の作成、戸籍収集。
銀行・信託銀行預貯金の相続手続き、相続手続き代行サービス。

本資料は2026年時点の一般的な情報をまとめたものです。手続きの要否・期限・金額・窓口は、お住まいの自治体、故人の加入制度、ご家庭の状況によって異なります。実際の手続きは各窓口や専門家にご確認ください。

▲ このページの先頭へ