相続した資産にかかる税金
受け取ったときの「相続税」と、売ったときの「譲渡所得税」 ― しくみと実際の計算方法
親や祖父母から資産を受け継ぐと、税金は2つの場面でかかります。1つは受け取ったとき(財産の評価額にかかる相続税)、もう1つは受け継いだ資産を売ったとき(売却益にかかる譲渡所得税)。税率も計算方法もまったくの別物です。
前半(1〜6章)が相続税、後半(7〜11章)が売ったときの譲渡所得税。相続税の速算表・早見表は「会社員のお金と税金」資料5とも共通です。
■ まず整理:相続の税金は「2種類」ある
| 相続税 | 譲渡所得税 | |
|---|---|---|
| かかる場面 | 財産を受け取ったとき | 受け継いだ資産を売ったとき |
| 課税の対象 | 遺産の評価額の合計(プラスの財産) | 売却益(売値 − 取得費) |
| 税率 | 10〜55%の累進(基礎控除を超えた分) | 資産の種類による(約20%〜最大約55%) |
| 申告・納付の期限 | 相続開始を知った日の翌日から10か月 | 売った年の翌年の確定申告(2/16〜3/15) |
| かからない人 | 遺産が基礎控除以下なら申告も納税も不要 | 売却益が出なければ課税なし |
1 相続税:そもそもかかるか(基礎控除)
相続税は、遺産の総額が基礎控除を超えたときだけかかります。遺産が基礎控除以下なら、申告も納税も不要です。実際、相続が起きても相続税を納めるのは全体の1割ほどで、多くの家庭は基礎控除の範囲に収まります。
基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
| 5人 | 6,000万円 |
※ 遺産の評価額の合計がこの金額以下なら、原則として申告も納税も不要。
■ 「法定相続人の数」の数え方
- 配偶者は常に相続人。あとは順位が高い人だけが相続人になる(第1順位=子、いなければ第2順位=親、いなければ第3順位=兄弟姉妹)。
- 相続放棄した人も“数”には含める(基礎控除の計算上。税逃れ防止のため)。
- 養子は上限あり。実子がいれば養子は1人まで、実子がいなければ2人まで、法定相続人の数に入れられる。
2 相続税:資産の「評価額」の出し方
相続税は相続開始日(亡くなった日)の評価額で計算します。同じ資産でも評価のルールは種類ごとに違い、とくに不動産は時価より低く評価されやすいのがポイントです。
| 資産 | 評価額(相続税で数える金額) |
|---|---|
| 現金・預貯金 | 残高(額面)そのまま |
| 上場株式 | 相続開始日の終値。ただし「当日終値/その月・前月・前々月の各月平均」のうち最も低い額で評価してよい |
| 投資信託 | 相続開始日に解約したと仮定した価額(基準価額ベース) |
| 土地 | 路線価方式(路線価×面積)。路線価は時価の約8割水準。路線価のない地域は倍率方式 |
| 建物(家屋) | 固定資産税評価額。時価のおおむね4〜6割になることが多い |
| 生命保険金 | 受取額 −(500万円 × 法定相続人数)の非課税枠を引いた額 |
| 死亡退職金 | 生命保険とは別枠で 500万円 × 法定相続人数 まで非課税 |
| 暗号資産(ビットコイン等) | 相続開始日の取引価格 |
現金1億円は評価額も1億円だが、同じ1億円で買った不動産は路線価・固定資産税評価額で評価されるため、評価額が数千万円下がることがある。これが「不動産で持つと相続税が軽くなる」と言われる理由。
3 相続税:計算の5ステップと速算表
相続税は「全員の合計額をいったん出してから、各自の取得割合で分ける」という独特の順番で計算します。まず流れをつかみましょう。
① 各財産を評価して合計 → 保険・退職金の非課税枠、借金・葬式費用を差し引く = 課税価格
② 課税価格 − 基礎控除(3,000万円+600万円×人数)= 課税遺産総額
③ 課税遺産総額を「法定相続分」で分けたと仮定し、各人の取り分に下の速算表を適用
④ 全員分を合算 = 相続税の総額
⑤ 総額を「実際に相続した割合」で按分し、各自ごとに配偶者の税額軽減などを適用 = 納付額
■ 相続税の速算表(③で使う。取り分=法定相続分に応ずる取得金額)
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | − |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
※ 税額 = 取得金額 × 税率 − 控除額。「控除額」は累進を調整するための速算用の数字。
4 相続税:計算例と納税額の早見表
前提:遺産の評価額 合計1億円/相続人は 配偶者・子2人 の計3人(非課税枠・借金なしと仮定)
① 課税価格:1億円
② 基礎控除:3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円 → 課税遺産総額 = 1億円 − 4,800万円 = 5,200万円
③ 法定相続分で仮に分ける(配偶者1/2、子は残り1/2を2人で)
・配偶者:5,200万円 × 1/2 = 2,600万円 → 2,600万×15% − 50万 = 340万円
・子1人:5,200万円 × 1/4 = 1,300万円 → 1,300万×15% − 50万 = 145万円(×2人)
④ 相続税の総額:340万 + 145万 + 145万 = 630万円
⑤ 実際の負担:配偶者が半分相続する場合、配偶者分315万円は配偶者の税額軽減でゼロ → 実際に納めるのは子2人の合計 315万円
同じ遺産1億円でも、配偶者がいない(子2人だけ)なら軽減が使えず、基礎控除も4,200万円に下がるため、納税額は約770万円に増えます。家族構成で結果が大きく変わるのが相続税の特徴です。
■ 遺産総額と家族構成でみる納税額の早見表(相続人全員の合計・概算)
| 遺産総額 | 配偶者+子1人 | 配偶者+子2人 | 子1人のみ | 子2人のみ |
|---|---|---|---|---|
| 4,000万円 | 0円 | 0円 | 40万円 | 0円 |
| 5,000万円 | 40万円 | 10万円 | 160万円 | 80万円 |
| 6,000万円 | 90万円 | 60万円 | 310万円 | 180万円 |
| 8,000万円 | 235万円 | 175万円 | 680万円 | 470万円 |
| 1億円 | 385万円 | 315万円 | 1,220万円 | 770万円 |
| 1.5億円 | 920万円 | 748万円 | 2,860万円 | 1,840万円 |
| 2億円 | 1,670万円 | 1,350万円 | 4,860万円 | 3,340万円 |
※「配偶者+子」の欄は配偶者の税額軽減を適用したあとの金額。小規模宅地等の特例などは含まない概算。
5 相続税:控除・特例で軽くする
相続税には税額をゼロ近くまで下げる強力な特例があります。ただしどれも「申告してはじめて適用される」もの。特例で税額がゼロになる場合でも、申告そのものは必要なことがある点に注意してください。
| 控除・特例 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 配偶者の税額軽減 | 1.6億円 または 法定相続分 の多い方まで非課税 | 配偶者に寄せると二次相続(次に配偶者が亡くなったとき)で子の負担が重くなる点に注意。要申告。 |
| 小規模宅地等の特例 | 自宅の土地330㎡まで評価額を80%減額 | 評価5,000万円の土地が1,000万円扱いに。配偶者や同居親族が相続する場合など。要申告。 |
| 生命保険金の非課税枠 | 500万円 × 法定相続人数 | 死亡退職金にも同額の別枠。現金より保険で残す方が有利になる典型例。 |
| 未成年者控除 | (18歳 − 年齢)× 10万円 を税額から控除 | 相続人が未成年の場合。 |
| 障害者控除 | (85歳 − 年齢)× 10万円(特別障害者は20万円) | 相続人が障害者の場合。 |
| 相次相続控除 | 10年以内に相続が続いたら前回の相続税の一部を控除 | 祖父→父→子と短期間で続いたときの二重課税を防ぐ。 |
| 債務・葬式費用の控除 | 借入金・未払税金・葬式費用は遺産総額から差し引ける | 香典返しや法要(初七日など)の費用は対象外。 |
相続開始前3年以内(2024年の改正で段階的に7年以内へ延長中)に受けた暦年贈与は、相続財産に足し戻して相続税を計算する。「亡くなる直前の駆け込み贈与」は節税になりにくい。
6 相続税かんたんシミュレーター
遺産の総額・家族構成に加えて、配偶者が実際に受け取る割合を入れると、配偶者と子それぞれが「いくら受け取り、いくら相続税を納めるか」を明細で試算します。あくまで概算で、小規模宅地等の特例などの個別事情は反映していません。
※ 相続人は「配偶者と子」を前提にした概算です。子がいない場合の親・兄弟姉妹のケースや、各種特例・控除は反映していません。実際の申告は税理士にご確認ください。
7 売却時の税金:取得費と取得日は「引き継ぐ」
ここからは、受け継いだ資産を売って現金化したときにかかる譲渡所得税です。相続税を払ったあとでも、売却益が出れば別途この税金がかかります。
譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)
ここでの取得費は「亡くなった人が最初に買ったときの価格」をそのまま引き継ぎます。相続したときの時価で買い直したことにはなりません。取得した日付も同様に引き継ぐため、前の持ち主が長く持っていれば、あなたも「長期保有」として扱われます。
祖父が購入 → 親が相続 → 子が相続、と受け継いだ場合、子が売るときの取得費は祖父が買ったときの価格。途中(祖父→親)の相続時の時価はわからなくても計算に影響しない。必要なのは、いちばん最初に買ったときの購入価格がわかる資料(購入時の計算書・領収書など)。
※ 最初の購入価格がどうしてもわからない場合は、売却価格の5%を「概算取得費」として使うことも認められている(この場合、利益が大きく計算され税金も増えがち)。
8 売却時の税金:資産の種類で変わる(早見表)
引き継ぐルールは共通でも、売却益にかかる税金は資産ごとに別物です。同じ100万円の利益でも、資産の種類で手取りが変わります。
| 資産 | 課税の区分 | 税率の目安 | 長期保有の優遇 | 取得費加算の特例 |
|---|---|---|---|---|
| 不動産(土地・建物) | 申告分離課税 | 長期 約20%/短期 約39% | あり(5年超で低率) | あり |
| 株式(上場) | 申告分離課税 | 約20%(固定) | なし | あり |
| 投資信託 | 申告分離課税 | 約20%(固定) | なし | あり |
| 金・貴金属 | 総合課税(譲渡所得) | 累進(5年超は1/2課税) | あり | あり |
| 暗号資産(ビットコイン等) | 総合課税(雑所得) | 累進 最大約55% | なし | なし |
| 預貯金・現金 | 課税なし(売却益が出ない) | − | − | − |
※ 株式・投資信託の「約20%」は所得税15.315%+住民税5%。不動産の長期も同じく約20%、短期(保有5年以下)は所得税30.63%+住民税9%=約39%。いずれも2026年時点の税率。
9 売却時の税金:見落としやすい注意点
- 不動産は建物の「減価償却」に注意。建物部分は、取得費から使った年数分の価値の目減り(減価償却費)を差し引いて計算する。取得費が思ったより小さくなり、利益=税金が増えることがある。土地にはこの調整はない。
- 金は5年超保有なら税金が約半分。金・貴金属は総合課税だが、前の持ち主から通算して5年を超えて保有していれば「長期譲渡所得」となり課税対象が2分の1になる。相続では取得日を引き継ぐので、たいてい長期扱い。
暗号資産の売却益は「雑所得」で、給与などと合算した累進課税。高所得の人ほど税率が上がり、最大で約55%になる。株や金のような優遇はなく、次章の取得費加算の特例も使えない。同じ感覚で売ると想定外の税負担になりがち。
10 売却時の税金:取得費加算の特例(3年10か月)
相続で受け継いだ資産を早めに売ると、払った相続税の一部を取得費に上乗せできる特例があります。取得費が増える=利益が減る=譲渡所得税が軽くなる、というしくみです。
相続税を実際に納めていること/相続で取得した財産であること/相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続開始から3年10か月以内)に売ること。この期限を過ぎると使えない。
不動産・株式・投資信託・金には使えますが、ビットコインなどの暗号資産には使えません(雑所得のため対象外)。売却を考えているなら、この3年10か月の期限を意識すると有利です。
11 譲渡益かんたんシミュレーター
資産の種類・売却価格・取得費を入れると、おおよその税額を試算します。あくまで概算で、控除や個別事情は反映していません。
※ 各種控除・特例・復興特別所得税の端数などは簡略化しています。実際の申告額とは異なります。金額が大きい場合は税理士にご相談ください。