資産管理法人による相続対策メモ
親の賃貸不動産を、子が出資する法人へ売る場合の検討メモ
親Aの賃貸アパートを、子BCDEが自己資金で出資する法人へ売買で移す想定。Aは株式を持たない。出資金を親が負担すれば贈与等を別途検討。株主と役員は別で、全員を代表取締役にする必要はない。
将来の家賃利益を子側へ移せても、親の財産が自動的に減るわけではない。売却代金・未収金は親に残る。不動産を現金化すると相続税評価額が上がる場合もある。移転費用・毎年の税金・取り出す税金・相続税を合計して比較。
制度確認:2026年9月22日。個別の時価・契約・特例の適否は、実行前に資産税に詳しい税理士等へ確認。
1 全体像 ― 親に残るもの・法人へ移るもの
| 対象 | 移した後の扱い |
|---|---|
| 法人の株式 | 子が実際に出資して保有する株式はAの相続財産ではない。ただし低額売買等で株価が増えると贈与税の問題がある。 |
| 不動産・家賃 | 売った不動産と以後の賃貸利益は法人側。建物だけ売った場合、土地の値上がりはA側に残る。 |
| 売却代金・未収金・貸付金 | Aの財産として残る。回収可能な債権は原則、元本残高と既経過利息等で評価。未収売買代金と貸付金は契約上区別。 |
| 売却後にAが受け取る地代・利息 | 引き続きAの所得。貯まれば相続財産も増える。「Aの財産の増加が全部止まる」わけではない。 |
例:時価1億円・相続税評価額6,000万円の不動産を1億円で売ると、売却前の評価6,000万円が、売却後は現金等1億円になる場合がある(税・費用等を無視した仮定例)。売却前後で相続税評価額が同じとは限らない。貸家・貸家建付地の評価や小規模宅地等の特例も比較。
評価の基礎は相続した資産の評価額。法人の財産と子個人の財布は別で、法人から個人に移すときにも税・手続がある。
出典:国税庁 債権の評価(204・205)・貸家建付地。
2 売買価格・借地権 ― 建物だけでも時価を確認
▶ 安売りは、親・法人・子のそれぞれに課税リスク
| 対象 | 確認する税金 |
|---|---|
| 親A | 法人へ時価の2分の1未満で売ると、原則として時価で譲渡所得を計算。2分の1以上でも同族会社の行為計算否認等の検討は残る。 |
| 法人 | 時価より安く取得した利益は、原則として受贈益となり法人税の対象。 |
| 子BCDE | 著しい低額譲渡等で増えた株式価値が、みなし贈与の対象になり得る。法人側の税負担等も含めて評価する。 |
「建物を簿価で売れば譲渡税ゼロ」とは決められない。簿価・相続税評価額・固定資産税評価額・通常の取引価額は別。土地・建物それぞれの時価を資料で説明し、必要に応じて鑑定を依頼する。鑑定書があっても税務上の承認を保証するものではない。
出典:国税庁 低額譲渡・株価増加とみなし贈与(9-2)・法人税の基礎(受贈益)。
▶ 土地ごと売るか、建物だけ売るか
| 方法 | 親に残るもの | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 土地・建物を売る | 売却代金・未収金等 | 両方の譲渡税・移転費用。売った土地はAの相続時の小規模宅地等の特例の対象にならない。 |
| 建物だけ売る | 土地+建物の売却代金等 | 土地の移転費用は抑えられるが、借地権・地代・土地の相続税評価を別途設計。必ず有利とは限らない。 |
▶ 土地をAに残す場合
- 借地権の認定課税:権利金を払う慣行のある地域等では、授受がないと法人側の受贈益が問題になる。相当の地代方式や無償返還届方式を検討。相当の地代は通達上おおむね年6%が目安だが、計算の基になる価額・改定方法も確認。
- 無償返還届:将来の無償返還を契約で定め、貸主・借主の連名で遅滞なく提出。届出だけで全ての税務問題が解消するわけではない。
- 土地評価:無償返還届がある賃貸借の貸宅地は原則、自用地評価の80%。使用貸借は届出があっても100%。同族会社の株式を純資産価額で評価する際には、土地の20%相当額を法人側に反映する取扱いにも注意。
- 小規模宅地等:賃貸アパートの敷地なら貸付事業用の200㎡・50%減が検討対象。法人の貸付事業に使う土地を、特定同族会社事業用の400㎡・80%減と混同しない。相続人の貸付事業承継・申告期限までの保有継続、相続開始前3年以内の新規貸付けの制限(例外あり)などを確認。要申告。
3 役員報酬 ― 勤務実態・金額・支払方法
- 実態と適正額:名義だけの役員に報酬を配らない。管理業務・職責・作業記録を残し、過大な部分は損金にならない。
- 支払方法:定期同額給与などの要件を満たす必要がある。通常改定は原則、事業年度開始から3か月以内。臨時改定・業績悪化等の例外や、事前確定届出給与は別途確認。
- 社会保険:法人は原則、強制適用事業所。各役員の加入は勤務・報酬等で判定。本業と法人の両方で加入対象なら、二以上事業所勤務の届出を行い報酬を合算。本人分だけでなく会社負担分も試算。
4 法人からお金を引き出す方法の比較
| 方法 | 法人側 | 個人側・注意点 |
|---|---|---|
| 借入元本・未払売買代金の返済 | 債務の返済であり損金ではない | 実際に貸した人・売主へ元本を返すだけなら、原則新たな所得ではない。利息は別。Aへの返済を子への非課税移転と混同しない。 |
| 役員報酬 | 支払方法・適正額の要件を満たす範囲で損金 | 給与所得課税。社会保険も判定。税率だけでなく会社負担分を含めて比較。 |
| 配当金 | 税引後利益から支払い、損金にならない | 非上場株の配当は原則総合課税。所得税等20.42%源泉徴収で完結せず、住民税も確認。国民健康保険等の保険料に影響する場合がある。 |
| 退職金 | 退職の実態があり、適正額の範囲で損金 | 退職所得控除+原則1/2課税。役員等勤続年数5年以下の期間に対応する分は1/2課税なし。 |
| 役員社宅 | 事業上の費用を要件に応じて処理 | 所定の賃貸料相当額を本人が負担。不足額は給与課税。小規模以外・豪華社宅は別計算。個人契約の家賃肩代わりも原則給与。 |
| 出張旅費・日当 | 業務に必要な費用を処理 | 実際の業務出張で通常必要な範囲は非課税。規程だけで私的旅行や過大な日当を非課税にはできない。 |
| 不動産を個人へ売り戻す | 譲渡益に法人税等 | 個人の購入資金と再度の移転費用が必要。売買価格も時価で確認。 |
配当は国内法人・通常の個人株主を想定。少額配当の所得税申告不要制度でも住民税の扱いは別。出典:国税庁 配当所得・少額配当の住民税・役員社宅・旅費の範囲(9-3・9-4)/渋谷区:国保の算定所得。
例:役員在任20年・退職金1,500万円なら、退職所得控除800万円を引いた残り700万円のさらに半分(350万円)にしか課税されない。通常計算では所得税等約27.8万円+住民税35万円=合計約62.8万円(控除の重複・確定申告による追加調整等なし)。国税庁:退職所得/所得税率/退職所得の住民税。これは個人側の税額例。1,500万円全額を会社の損金にできると確認した例ではない。税額例と、法人で損金算入できる適正額の判断は別。
▶ 功績倍率方式と、退職金の限度
最終月額役員報酬 × 役員在任年数 × 功績倍率で、退職金の妥当な額を検討する方法。例:月額30万円 × 20年 × 2倍 = 1,200万円。倍率2倍は計算例で、認められる上限の保証ではない。
- 「社長なら3倍までOK」という固定ルールはない。同業種・同程度の規模の法人の支給実績、本人の職責・功績、在任期間、退職事情などで判断。社内規程や株主総会決議だけでは適正額の裏付けにならない。
- 資産管理法人も勤務実態が必要。保有資産や預金残高の大きさだけでは高額退職金の根拠にならない。管理・経営業務の内容と記録を残す。最終月額報酬が功績を反映していなければ、別の算定方法が適切な場合もある。退職直前の増額だけで退職金枠が増えるとは限らない。
- 退職の実態が必要。肩書を変えても経営を主導し続ける場合などは、退職金としての扱い自体が問題になる。
- 支給前に根拠を整える。税理士と類似法人の資料、報酬履歴・勤務記録、退職金規程、株主総会決議、退職後の職務を確認。会社の資金繰りも含めて金額を決める。
仮に3,000万円を支給し、適正額が1,200万円と判断された場合、超過1,800万円は会社の損金にできない。支給したお金は減っても、その部分では法人税の課税所得を減らせない。個人側の退職所得控除・1/2課税とは別の判定。退職の実態がない場合は、個人側の所得区分も別途確認が必要。
確認資料:国税庁:功績倍率法の定義/退職金の適正額・分掌変更/損金算入時期/国税不服審判所:役員退職給与の裁決事例。
退職金は、適正な報酬・勤務実態・退職を前提とした資金移転の選択肢。会社に貯まったお金を自由な額で引き出せる制度ではない。
5 法人化の損得 ― 税率だけで決めない
| 比較するもの | 含める負担・効果 |
|---|---|
| 入口:法人へ売る | 親の譲渡税・消費税、取得税・登記費用、評価・設立・融資費用 |
| 毎年:保有・運営 | 個人と法人双方の税金、役員報酬、社会保険の本人・会社負担、地代・利息、申告等の維持費 |
| 出口:個人へ取り出す | 配当・退職金・資産売却・清算等の課税と手元資金 |
| 相続:家族全体で比較 | 親に残る現金・債権・土地、使える評価減・特例、配偶者の次の相続、子が持つ非上場株式の承継 |
通常の要件を満たす中小法人では、国税の法人税は年800万円以下の所得部分が15%、超える部分が23.2%。15%特例は2027年3月31日までに開始する事業年度が対象。所得年10億円超は軽減部分17%、大法人の完全子会社・適用除外事業者などは別扱い。
これだけが会社の税負担ではない。地方法人税・法人住民税・法人事業税・特別法人事業税等も確認。小規模法人の住民税均等割は年7万円が標準的な例だが、所在地・資本金等・人数・月数で変わる。赤字でも原則負担。
防衛特別法人税:2026年4月1日以後に開始する事業年度から、基準法人税額のうち年500万円を超える部分に4%。利益500万円への課税ではない。税額が0円でも対象法人は申告が必要。
出典:国税庁 法人税率・防衛特別法人税/財務省:軽減税率の期限/東京都:法人の地方税。
個人の限界税率と法人の税率をそのまま比べても結論は出ない。家族へ支払う適正報酬、社会保険、移転費用、法人に残す利益、取り出し時の税まで合算。毎年の節税額が維持費を下回る場合や、相続で渡す方が安い場合もある。
6 移転費用・消費税・実行前チェック
| 費用 | 目安・条件 |
|---|---|
| 登録免許税(売買の移転登記) | 原則、固定資産税評価額×建物2%。土地は2029年3月31日までの登記なら1.5%(本則2%)。通常の相続は0.4%。 |
| 不動産取得税 | 2027年3月31日までの取得は土地・住宅3%、非住宅4%。宅地等の課税標準は価格の1/2。原則、購入価格ではなく固定資産評価額。相続は原則非課税。 |
| 親の譲渡所得税等 | 売却年1月1日に所有5年超なら原則20.315%、5年以下なら39.63%(2026年)。売却額でなく、取得費・譲渡費用を引いた利益に課税。 |
| 設立・評価・融資等 | 会社形態・資本金・物件・借入条件で変わる。登記、定款、鑑定、印紙、仲介、専門家報酬を見積もる。 |
| 継続費 | 住民税均等割、申告・記帳、社会保険の事務、維持管理費。法人化前との差額で比較。 |
建物の取得費は減価償却を反映。取得費不明なら資料を探し、概算取得費5%の適用も検討。分割払いでも売却年に代金全体に基づく譲渡所得が発生するため、納税資金を先に確保。
▶ 消費税 ― 家賃と建物売却は扱いが違う
| 場面 | 確認点 |
|---|---|
| 居住用の家賃・土地の売却 | 原則、消費税は非課税。 |
| 賃貸事業用の建物を売る | 課税取引。Aが売却時に課税事業者なら原則、納税計算が必要。免税事業者かは基準期間・特定期間・インボイス登録等で判断。 |
| 売却後のA | 建物売却を含む課税売上高が1,000万円超なら、原則として2年後の課税事業者判定にも影響。売却年の税金とは別の論点。 |
| 法人が居住用賃貸建物を買う | 税抜1,000万円以上の一定の建物等は、居住用部分の仕入税額控除が原則制限される。払った消費税が必ず還付されるわけではない。 |
出典:国税庁 登録免許税・分割払いの売却収入・建物売却の消費税・納税義務の免除・居住用賃貸建物の控除制限/東京都:不動産取得税。
▶ 契約前に確認すること
- 比較:何もしない/建物だけ売る/土地ごと売る、の税・費用・相続税・現金収支を同じ期間で試算。
- 価格と契約:時価資料、売買代金と支払日、土地賃貸借・地代・無償返還届、親からの借入れの金利・返済を整合させる。
- 融資:既存金融機関の承諾、借換え・担保・保証・団信の継続可否を確認。個人の借入れは自動で法人へ移らない。
- 賃貸管理:賃貸人変更、敷金・保証金の承継、管理契約、火災保険、家賃振込先を整理。
- 家族の合意:出資割合、経営権、売却・配当・退職金の決め方、死亡時や意見が割れたときの扱いを決める。
7 相続・贈与の基礎は別ページで確認
| 知りたいこと | 要点・参照先 |
|---|---|
| 相続税がかかるか | 基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人数。特例を使って税額0円にする場合は申告が必要なことも。相続税シミュレーターへ。 |
| 配偶者・土地の特例 | 配偶者の軽減は実際の取得額に対して判定。土地は移転後の利用・相続人の要件も確認。控除・特例へ。 |
| 生前贈与の加算 | 2026年中の相続は原則3年以内、2031年以後は7年以内。相続等で財産を受けた人が対象。期間・対象者へ。 |
| 相続時精算課税 | 年110万円の基礎控除があっても初回の選択届出は必要。要件・撤回不可を確認。精算課税の条件へ。 |
| 死亡保険金 | 故人が保険料を負担し、相続人が受け取る分に全員合計500万円×法定相続人数の枠。相続放棄した人等は対象外。評価と非課税枠へ。 |
適正な勤務対価である役員報酬は贈与とは別。ただし所得税・住民税・社会保険の負担を伴う。返済免除や出資金の肩代わりを、役員報酬と同じ扱いにはできない。
8 参考資料・検討の限界
各項目の出典は国税庁・自治体・日本年金機構等の一次資料。法人化に共通の「必ず得になる所得額」や「必ず認められる売買価格・退職金倍率」はない。
一般的な検討メモであり、個別案件の税務・法律上の判断ではない。時価・土地の権利関係・借入条件・家族の所得をそろえ、資産税に詳しい税理士、必要に応じて不動産鑑定士・司法書士等と確認。